WEB3に見る株式会社に代わる新たな企業の可能性

株式会社は、1600年代初頭に誕生してから、それほど大きく形を変えることもなく、今日まで経済活動の中心的な役割を担ってきた。株式会社は、有限責任制度と株式の自由な譲渡という特徴がある。この2つの特徴により、会社を設立すれば資金調達がしやすいことから、大規模な経営に向いている会社形態であるされてきた。

とはいえ、大規模な経営を目指す場合に、簡単に資金が調達できるかといえば、それなりにハードルは高い。市場から資金調達しようとする場合、証券取引所に株式会社を上場させる必要がある。証券取引所に株式会社を上場させる場合、証券取引所の上場規則および審査をクリアする必要がある。そのため、これからビジネスを始めようとする起業家が市場から資金調達する機会としてはハードルが高いのである。

そのようななか、株式会社一強時代を破壊する可能性を秘めた組織が誕生した。それは、暗号資産を用いた組織である。なかでも、DAO(Decentralized Autonomous Organization、自律分散型組織)は近年注目を集めている。暗号資産の活用が活発となり、その活用法も多様化されている。暗号資産のなかには、ガバナンストークンと呼ばれる株式に類するものが発行されている。このガバナンストークンのホルダーは、組織の意思決定に参加することができ、ステーキング(預入れ)などを通じて利益の配分を受けることもできる。まさにガバナンストークンが担うのは、株式会社における株の役割である。このガバナンストークンは、事業開始初期に発行され、事業をスタートする際の資金調達に用いられている。

事業開始初期から資金調達をできることから分かるように、こうした暗号資産を用いた組織体の形成は、株式会社の資金調達に比べて圧倒的にハードルが低い。まず、暗号資産の発行にあたって、法的な規制は緩く、国際ルールもほとんど存在していない。法的な規制が緩い背景にあるのは、web3の概念自体が特定の1つの国にとどまるものではなく、Webを介して世界中に分散するものだからである。国内の株式市場のように法的規制のもとで取引が行われている訳でもない。また、株式会社のように国内法によって根拠法の存在するものでもないことから、創業者の手によって比較的自由にトークンが発行される。トークンを発行した時点で安く大量のトークンをweb上にばら撒いている状態となる。そして、世界中に点在する取引所や販売所に上場することでそのトークンがweb上で売買される。トークンが上場する際に、暗号資産の販売所や取引所がそれぞれの裁量によって、トークンを上場させるのかを判断することになる。

今日の暗号資産市場は、値動きが激しく、ストップ高やストップ安の概念もないため、銘柄によっては上場後すぐに1000%上昇する例も珍しくない。そのことから、上場前のトークンを取得し、上場後の爆発的な高騰に期待する投資家も珍しくない。このさいに、爆発的な利益に目がくらんだ投資家たちによって、信頼性の低いプロジェクトや詐欺のプロジェクトにさえも資金が集まる事態になっている。さらにいえば、株式会社であれば、上場規則があるため、信頼性の低いプロジェクトは上場することもないが、そうした信頼性の低い銘柄でも、販売所や取引所に上場しているのが現状である。

こうした暗号資産を用いた資金調達には、規制が及んでいないことによるリスクはかなり大きい。実際に詐欺が頻発していることからも、放置してはならない問題であろう。とくに、暗号資産関連の詐欺は、被害者が声を上げず、泣き寝入る場合が多く、同じ手段を用いた詐欺が続くこともある。ハッキングによる被害も多発しているが、ハッキングによる被害も被害者が自らを責め、特に法的な措置を取らないことが多い。

このように、暗号資産を活用した組織は、多くの問題を抱えている。しかし、株式会社が誕生してから約420年もの月日が経っているが、株式会社よりも資金調達がしやすい組織形態があっただろうか。投資家にとってリスクはあるものの、スタートアップ企業が市場から資金調達することのできる仕組みは、起業家にとってチャンスだろう。この仕組みは、世界の経営環境を一気に変える破壊力をもっているだろう。暗号資産を用いた新しい企業は、今後数年のうちに世界の常識と化すかもしれない。私たち経営学者は、新しいものを受け入れたうえで、健全性を確保する方法を考え、株式会社を圧倒するほどの組織に成長させる手立てを考えていかなければならないだろう。

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